November
14
2008
アラン・グリーンスパン、言わずと知れた前FRB議長です。在任末期にはその金融自由化政策の成功で「神」に祭りあげられていました。アメリカに未曾有の富と栄光をもたらした、金融自由主義の立役者。それがいまでは、サブプライムショックに端を発した金融恐慌の元凶とまで非難されています。気持ちは理解できますが、そんな非難など、氏の業績に対して何の障害にもなりません。少なくともFRB議長在任中の約19年間にアメリカは、危機的な不況を脱しただけでなく、製造業から金融業への大きな産業転換を果たし、グローバリズムの旗頭として、末期には史上最大の好景気に導いたのですから。氏のすべての経済政策が正しかったなどということはありませんが、少なくとも他の誰よりも的確に経済状況を捉え、他のどのような経済学者よりも適性に金利を誘導し、マネーサプライを調整し、金融政策を行ってきたと思うのです。
また氏の経歴が非常にユニークです。氏は若い頃ニューヨークのジュリアード音楽院を卒業後、プロのクラリネット奏者としてビッグバンドで働いていたそうです。生粋のJAZZミュージシャンなのですね。その後25歳でニューヨーク大学に入学し経済学を学び博士号を取得、コンサルティング会社を設立して成功を収めたそうです。なんだか、うらやましい経歴ですね。1974年フォード政権下で大統領経済諮問委員会委員長を務め、1987年レーガン大統領によってFRB議長に就任しました。レーガン政権下というのは「強いアメリカの復活」ということで、膨大な財政支出による赤字が累積した時代。現在のアメリカの財政危機の元凶とされる時代ですから、FRB議長としては、現在のバーナンキ氏と同様に非常に苦難の時代からのスタートだったでしょう。
「波乱の時代」というのは、氏の回顧録です。(上)わが半生とFRB、(下)世界と経済のゆくえ、で構成されていましたが、脱稿は2007年6月だったといいますので、まだサブプライムショックが表面化する以前です。しかし、下巻の中では、現在の危機的状況を予測している感のある記述がふんだんに登場しますので、こうなることは分かっていたのだろうと思われます。恐らくその点も含めて、現在批判されているのだろうと思いますけど。写真は約1年後に追加出版された「特別版」で、サブプライムショック以降の経済について、言及した内容となっています。氏もこれほどまでに金融恐慌が唐突にやってくるとは思っていなかったのでしょう。今回の金融恐慌は「百年に一度」と本書で書かれていることからも、氏のショックがありありとうかがえます。
この「特別版」と読んで、アメリカ金融業界が、氏の自由化をいつの間にか湾曲して自己主義的に解釈し、利益至上主義に走っていた様子や、恐らくこの現象を「神」であるグリーンスパンでさえも、もはや静止ないしは規制することが出来なかったという心の葛藤が如実に読み取れます。そして、理想と現実のギャップというものが、どれほどすさまじいものであったかは、現在の状況、そして2009年に至る今後の経済状況を見れば、よく理解できるのでしょう。今、僕達は、まさに歴史の傍観者となっているのですね。
この時代を経験できることが、どれほど貴重なことかは、今後必ず分かるときが来るはずです。僕はもうこの経験を体験者として聞かせて、またはアドバイスしてあげられることは無いかも知れないけれど、資本主義が続く以上、経済の過熱、熱狂、暴落という波は避けて通ることは出来ないのだろうと思います。
ただ、今は、この歴史の立会人として頑張るのみですね。
Posted by 有海啓介 | この記事のURL |